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『まほうつかいになりたかった女の子の話』 その3

2009年04月30日 00:56

世の中には”窒息萌え”っていう世界もあるんですよね。

主人公が危機的状況に直面してテンパっている様子を愛でる、
という意味では通じるものもあるんじゃないかとか、
それはちょっと暴論じゃないかとか、
前回のパートを書きながらそんなことを考えてました。

まあこのお話ではヒロインは窒息死にまではいたらないんですが、
そのかわり違うモノへと引きずり込まれてしまうわけで。
そんな第3話。

今北さん用あらすじ
・魔法使いが住むという森の小屋を訪ねてみたら、留守だった。
・そこにあった魔法っぽいローブを着たら、なんか脱げなくなった。
・窒息しかけて死にかけて、なんとか助かったけど……あれ?

※初めから読む人は→1話へ

   ×   ×   ×

ケチャは、呆気に取られていました。
目の前でたて続けに起こる、自分の理解をはるかに超えた事態。

自分が、強情を張ったから。
自分が、こんな所へ連れてきたから。
自分が、ちゃんと止めなかったから。
自分のせいで、自分のせいで、自分のせいで。
お姉ちゃんが、死んじゃう。

そう、感じたこと。
混乱の中で、机の上に置いてある果物ナイフを見つけたこと。
夢中でそれを手に取ったこと。
震える手でお姉ちゃんを包み込むローブを切り裂いたこと。
その手触りが異様に柔らかくて、でも重くて、
瞬間、お姉ちゃんの身体まで
傷つけてしまったのではないかと
パニックになったこと。
それを確認するために切り口へと目をやって、
そこで見たもののこと。

『ブハァッ!』

ちょうど腹部にあたる部分に、ぱっくり開いたナイフの切り口。
そこが、文字通りの大口を開けて。
――「息」を、したこと。

『ハァッ、ハァッ、ゲホゲホッ……ハッ、ハァッ……』

時おりせきこみながら、貪欲に酸素を取り入れていく、
まぎれもないその“口”。
その端には、透明な液体――ねばついた涎が、
糸を引いている様子まで見て取れるのです。

「こんな……はずじゃ……」

ケチャは弱々しく首を振ります。
ローブを切り裂けば、そこにはお姉ちゃん本来の身体があって。
いつもみたいに元気な悪態をつきながらそれを脱ぎ捨てて。
ちょっとだけ、褒められたりなんかして。
それで2人は家に帰って。
明日からはまた、一緒に遊んで――そう、なるはずだったのに。

目の前で起こっていることは、ケチャの予想の限界をはる
かに超える異常事態。
でも。
ああ、どうしてこんなことばかりに気付いてしまうのでしょう。
ローブに新しく出来た裂け目を“口”だとするならば。
その、法衣を纏ったお姉ちゃんの身体全体は、
あたかも大きな顔のようで。

だとすれば、胸の位置にひときわ深く寄った皺はまるで、
重く垂れ下がった瞼のようで。
いや、そんなのただの錯覚だと思いたくて。
思おうとして。
ぴくん、と“瞼”が動いたことも気のせいだと思いたくて。
思おうとして。
でも、駄目で。
ゆっくりと開かれていく、
その巨大な“目”をなす術も無く眺めながら――

ケチャは、呆気に取られていました。


ジルは、ゆっくりと目を開きます。
何がどうなったのか分からないながらも、とにかく、
助かったことだけは分かりました。
霞む目をしばたいて、目の前のケチャに焦点を合わせます。

この弟が、どうにかして助けてくれた
――それも、なんとなく分かっていました。
いつもうるさくて、生意気で、言うことをちっとも聞かなくって、
喧嘩ばかりだった弟。
しかし、そう、この通り。
やる時はやるのです。
自然と、笑顔がこぼれます。
いまだに不安をいっぱいに抱えて、泣き出しそうなケチャ。
そう、ここからはジルが自分の役目を果たす番です。
ゆっくりと呼吸を整えて――感謝の、言葉を。
ありがとうの、言葉を。

『 メ ダ パ ニ 』

――――!?

自分の口をついて出た妙にカン高い声に驚くより先に、
ケチャが電撃に打たれたように飛び上がります。

ジルは知るよしもありませんが、それは皮肉にも彼
女があんなに夢見ていた“魔法”の言葉でした。
――混乱魔法。
聴く者の耳から脳の奥へと潜入し、精神の核を揺さぶり、
かきまぜ、錯乱の極地へと導く悪魔の言葉。
一度それに捕らわれた者は敵も味方も見失い、
見境のない行動を強いられることになります。

本来なら、魔法使いの才能を持った冒険者が
きびしい修行の末に身に付けるもの。
屈強な戦士や凶暴な魔物すら飲み込んでしまう
その“混乱”を司る呪文が、ケチャのやわらかく無防備な精神に
効かないはずがありません。
頭をかきむしりながら絶叫をはじめたケチャを前に、
ジル自身もまたパニックに陥っていました。

なんで?
何が起こったの?
あたし今、何て言った?
ケチャ!
ああケチャ!
大丈夫ごめん許してごめんお願いごめんごめん元に戻って――!

夢中で口走るその言葉のすべてがメダパニの呪文となって、
弟に追い討ちをかけていることにすら、ジルは気付いていません。
声をかけるほどに耳を押さえ、あぶくまじりの涎と鼻血を
だらだら流しながらケチャの混乱は加速していきました。
そして、ついに。

「ぐぎゃあああ、あがががぁあああああ――っ!」

少年は身体をくの字に折り、
言葉にならない獣のような叫び声をあげたかと思うと
目にもとまらぬ勢いで小屋を飛び出して行ってしまいました。

後に残されたのは、ジル。
いいえ、ちょっと前までジルだった“何か”。
ケチャの後を追いかけようとして、足をもつれさせて転び、
それから起き上がるだけの動作にやたら時間のかかった“何か”。
全身をピンク色のだぶついた皮で覆い、鈍重な動作で
もう一度それを脱ごうとあがいている“何か”。

やがてふと部屋の片隅に置かれた姿見に気付いて――
のそのそとその前まで歩いてきた彼女は、
そこに映ったわが身を見て、凍りつきます。
その、小さく丸まったシルエット。
申し訳程度に生えている、貧弱な手足。
楕円形の胴体の中央には――
いえ、胴体そのものが、と言うべきでしょうか――
不釣合いに巨大で、異様な顔。
本来胸のあるべき位置に、ぎょろりと輝く目がふたつ――
鏡のこちらの彼女の目を、まっすぐ見つめています。
腹部の真ん中には、どこか両生類を思わせる大きくいびつな口が、
驚愕に震えていました。

息を呑んで、目をしばたいて、
短い手で精一杯その身体中をなでまわして、
いまやそれが、彼女自身の肉体と完全に同化したことを
否応なく認識した瞬間、今さらのように体中から大量の冷や汗が
噴き出してきました。

あたし――どうしちゃったの?
これって――だって、そんな、ウソだ。
だって、こんなの――こんなの、人間じゃないじゃん!

   ×   ×   ×

あと一回だけ続きます

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コメント

  1. ゴゴT。 | URL | Xj9pzKFI

    Re: 『まほうつかいになりたかった女の子の話』 その3

    DQの混乱は結構コミカルな行動をする時もあるんですが
    こうリアルに考えるとなかなか恐ろしい呪文ですな。
    TFに本能堕ちやMC(マインドコントロール)とか絡ませるのは時折見ますが、
    本人より周囲の人の方が精神被害を受けるというのも新しいですかね。

    ちょっと可哀想な気もしますが、まあそれを言ったら
    こんなジャンルの標的に選ばれた時点で不憫なんだよ、とw

    シワシワの一頭身でメダパニ使いとなるとアレですかね。
    DQはそれほどプレイしてないので自信ないですが。

  2. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『まほうつかいになりたかった女の子の話』 その3

    >ゴゴT。さん
    まあ彼女がジルであることを証言できる人間がいると
    いろいろ面倒だからというのが正直な所なんですけどねw
    「自分が自分であることを分かってもらう唯一の希望を、みずから潰してしまう」
    というシチュが好きだというのも大きなポイントになってます。

    予想は……うん、あってますねw

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