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『中の人などいない』 後編

2008年05月06日 23:43

ようやく完結編です。

女の子のスーツアクターって、意外と多いらしいですね。
さすがにバイトってことはないと思うけど。

くどいようですが、元の絵はこちらから見られます。
うーん、何度見ても素晴らしい。

girl→monster...
monster film


お話をはじめから読む人は→前編へ
女子アナさんの取材を受けた、その日の夜のこと。
撮影所の小屋で、いつものように
あたしの巨体を洗いながら、丸谷さんは上機嫌だった。
ごし。ごし。
時おりふざけて、あたしの乳首とか、
あと、その……あそことかを、デッキブラシでこすったりする。

あたしが喜ぶとでも思っているのかな。
たしかに、変に甘い鳴き声が出ちゃったり、
むき出しの股間がぬるぬるしてきたりすることはあるけど……
ていうか正直、気持ちいいことは気持ちいいけど……
イっちゃったことも、何度かはあったけど……
でも、やっぱりイヤだ。
特に今日は、すごく、イヤだ。

「映画、けっこう入ってるってさ。
なんか海外でも公開するらしいよ。
やったじゃん、やっぱり才能あったんだよ。
ははっ、どうよ、大スターの仲間入りした気分は?」

ごし。ごし。
頭を大きく横に振る。

「ん、どうした?」

――もう限界。
もう、駄目なんです。
勘弁してください。
お家に帰してください。
お願いします、お願いします。お願い……ですから。

当然、言葉にはならない。
でも表情と身振りから、気持ちは伝わったみたいだった。

「それは、元の身体に戻りたいってことかな?」

首をせいいっぱい、縦に振る。
丸谷さんは、デッキブラシの悪戯を続けながら、にっこりと微笑んだ。

「まあ公開からだいぶ経って、
プロモーションもひと段落したみたいだからね。
人気出ちゃったからまだ声はかかってるけど、
断われる範囲内だと思う」

――やった!
ついに、ようやく!
家が。学校が。ユウが。ダブチが。
そしてなにより、あたしの本当の身体が……

ごし。ごし。

元に戻れるという安堵感のせいか、
今さらのようにデッキブラシに弄ばれている股間が、
むずがゆいような『その感覚』をゆっくりとらえはじめる。
固くて分厚い皮膚にしっかりガードされた、小さく深いスリット。
その奥の奥、自分では見ることもかなわないような粘膜が、
ゆっくりとほぐれていく。

びくん。

あたしが小さく身体を震わせるのを、丸谷さんは見逃さない。

「ははっ、気持ちいいか。
ええと、このへんが良いのかな?」

ごし。ごし。

例えるなら……Gパンの上から爪を立てて引っかくみたいな感じ?
もどかしくて、頭のすみがぼうっと霞む。

「しかしもったいないなあ。
それだけ見事に馴染んでるのに。
俺だってこうして遊んであげるし、どう、もうちょっと頑張ってみたら」

とろり、と蜜が股間からこぼれる。
いけない。
流されちゃいけない。
あたしは、家に帰るんだから。
ゆっくりと、でも、きっぱりと、横に顔を振ってみせる。

「そう、か」

ぴたり、とデッキブラシの動きが止まる。
丸谷さんは、ちょっと困ったような顔をして、あたしを見た。
そして、言った。
今まで一度も聞いたことが無い、固くて冷たい声だった。

「でもね、残念なことに」
「グォ?」
「君のギャラ、マイナスなんだよね」

頭に昇っていた血が、すうっと音を立てて引いていく。
――え?
マイナスって?
映画は大成功なんでしょ?
CMにも、特番にもあんなに出たじゃない?
大スターの仲間入りって……丸谷さんさっきそう言ったよね?

「なに不思議そうな顔してるんだよ、あれだけ前借りしておいて」

――ま、え、がり?

「この宿舎の建設費、維持費、飼育係としての俺の給料――
これだけでもそこそこいくけど、何よりエサ代。
毎日あれだけの量食ってりゃ、
ポッと出の『女優さん』のギャラじゃあ、とてもまかないきれない」

――え? え? え? え?
それって、つまりどういうこと?
それ、もしかして、いやそんなまさか――

「言ったはずだよ、元の姿に戻るのにも費用がかかるって。
君はそれを全部、文字通り食いつぶした。
まあ、早い話が」

やだ、聞きたくないっ!!

「元には戻せない、ってことだよね」

へたへたと体中の力が抜ける。
頭のなかが妙にクリアになって、今まで幻につつまれていたような、
それこそ映画の中の出来事みたいだったこの身体を、
はじめてリアルに認識する。
途方も無い自分の体重と、それを支えていた太い足の筋肉、
そしてそこに流れるあたしの血液を、はっきり感じる。

あたし専用の食事?
ちがう。
ただの『エサ』じゃないか。
専用の宿舎?
ちがう。
猛獣を閉じ込めておくための『檻』じゃないか。
タレント体験? スターの仲間入り?
馬鹿な。
あたしはそんなんじゃなく、ただの――ただの、『化け物』だ。
視界が、ゆっくり暗転していく。

あの女子アナさんは、正しかった。
だって、あたしはもう人間じゃないんだから。
ましてや「花の女子高生」なんかであるはずがない。

このざらざらの肌と、鋭くぎざぎざの背びれ、
太くて滑稽な尻尾と、鋭い牙に爪、鈍重な鳴き声――
アア、コレガ全部、マギレモナク、アタシノ『現実』ナンダ。

「言い忘れてたけど、続編の制作も決定したらしいから。
あははっ、ちょうどいいじゃん。
それでもっともっと稼いだら、もしかしたら戻れるかもしれない。
ちなみに次回作の敵役、イモムシの怪獣なんだぜ。
これはキモいよ。
誰がやるかはまだ決まってないんだけど、
そいつにくらべれば、君なんかまだ全然マシな方じゃない?
おーい、ねえ、聞いてる?
ええと……あれ、君、名前なんだったっけ?」
「!」

呼んで。
呼んでよ。
人間のあたしを、女の子だったあたしを、忘れないで。
あたしは、仲野ヒトミ。
もう贅沢は言わないから、だから、お願い。
誰でもいい、せめてあたしの――あたしの名前を、呼んでください。


   ×   ×   ×

というわけで、おしまいです。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうか。

また、イラストの作者・憂鬱狼kenさんにも
改めてお礼を申しあげます。
ありがとうございました!

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コメント

  1. 獣好きガロン | URL | iwIyBg/Q

    初めまして

    こんばんは、初めまして、トランキライザーの雷鳴さん宅でコメントをしている獣好きガロンと申します。
    中の人などいない…終わりましたね。まさか彼女が元に戻れないとは…驚きました。
    自分もこう言う小説とか書きたいですね…羨ましいです。

  2. K | URL | -

    Re: 『中の人などいない』 後編

    最初から最後まで読ませて頂きました。
    実を言うと怪獣変身というシチュエーションは昔から見たかったものであります。
    その夢を叶えてくださったのはgreenback様、貴方様であります。
    最後がバットエンドなのがちょっと怖いかも。
    実を言うとウルトラ怪獣の変身が見てみたいです。
    余裕があればでいいので書ければ書いてもらえませんか?

  3. カギヤッコ | URL | /k8K4ErU

    Re: 『中の人などいない』 後編

     よくよく考えると怪獣化の維持費の方が高く付いたと言う点ではそれこそ製作者側の大ミスかもですね。
     巻き込まれたヒロインにはただ合掌です。

     仮に戻れる版の場合はどんな展開になっていたのやら。
     やはりクセになっていたと言う落ちかも?

     とにもかくにもお疲れ様でした。

  4. 憂鬱狼ken | URL | eYj5zAx6

    Re: 『中の人などいない』 後編

    お疲れ様です。
    帝愛に騙されるカイジ(ネタがマニアック)を彷彿とさせる落ちですねw
    読みやすいので最後まですらすらと読めちゃいました。
    こういう形でタイアップさせてもらい本当にありがとうございます。

  5. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『中の人などいない』 後編

    皆さん、コメントありがとうございます!
    すごく力になりますm(_ _)m

    >獣好きガロンさん
    はじめまして。
    『へんなかがみ』の登場人物はほとんど戻れませんw

    >Kさん
    叶えてくれたのはkenさんですよー^^
    怪獣モノまた書くと、これの焼き直しになっちゃいそうですね。
    すごくいいアイディアを思いついたら書くかもしれません。

    >カギヤッコさん
    維持費(食費)というのはkenさんのコメントから流用なんですけどね。
    丸谷さんの言うことだから嘘なのかもしれません。

    >憂鬱狼kenさん
    「な……なんでこんな目に……
    あたしが……あたしだけが……
    おおおっ……!
    うぐぐぐっ……!」
    たしかに似てるかもw
    帝愛、というかパチンコ編の遠藤さんかな?
    こちらこそありがとうございました。
    また何かでご一緒できたらいいですね。

  6. K | URL | -

    Re: 『中の人などいない』 後編

    ああっ・・そうだった、Kenさんが始めだったかー。
    Kenさん、すいませんでした。
    ・・でも大分昔、EDOMOLさんのお絵かき掲示板でゴジラに変身している女性ディレクターのシークエンスを見たことがあるような・・・

  7. Re: 『中の人などいない』 後編

    どうも、はじめましてといいますかなんといいますか(笑) 以前ハカイダー02名義で風祭さんに寄稿させていただいていたこがねむしと申します。
    どうも力作お疲れ様でした。
    コラボはいいですねー、夢が広がります。
    さて、もしよろしかったらうちのブログからこちらにリンク貼らせていただこうと思うのですが、いかがでしょうかー。

    (女性スーツアクターは、最近だと小野友紀さん(ハリケンブルーなど)あたりが活躍されてますね)

  8. ゴゴT。 | URL | Xj9pzKFI

    Re: 『中の人などいない』 後編

    「うわ……丸谷さん、外道……」
    と思わず呟いてしまいそうなオチですねw
    ……って家畜化とか書いてる私が外道っぷりをどうこう言えたものではないのですがw
    獣化・異形化の被虐的な要素を主軸にした作品とバッドエンドは切っても切れないものですが、
    やはりヒトミさんが可哀想でもあり、しかしその要素が萌えでもあり……
    己の業の深さと向き合わせられ、考えさせられる深い作品であります……って、だからそういう話ではないんでしょうけどw

    元絵を描かれた憂鬱狼ken様もgreenback様も、素晴らしい作品をありがとうございましたー!

  9. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『中の人などいない』 後編

    >こがねむしさん
    そちらからコメントして頂けるとは……!
    もちろん、リンクはありがたく承ります。
    こちらからも張らせて頂きます。
    コラボというか、トラックバックに関しては
    こがねむしさんの所でやっているのを見て
    パクらせていただいたものだったりします^^;
    楽しいものですね。


    >ゴゴT。さん
    や、確かにヒドいと思いますよ、丸谷さん。
    登場人物が憎いわけじゃなく、むしろ好きなのに
    なんでこんなヒドい目に逢わせなきゃ気がすまないのか……
    それが『S』ってものなのか、どうなのか。
    我ながら、ほんとに妙な嗜好だと思います。

  10. 石山 | URL | txZHgShk

    Re: 『中の人などいない』 後編

    うぁぁぁ、もう、なんというか。好きです!
    最初は軽い気持ちが、どんどん扱いがどんどんひどくなる状況にとまどう主人公。こういった展開すごく好きです(笑)
    変身するといつも裸なんですよね。でも、女の子扱いなんて誰もしないという・・・。あぁ、もう、どきどきしました。

  11. greenback | URL | xB9R6Xc2

    Re: 『中の人などいない』 後編

    >石山さん
    コメントありがとうございます。
    こうして古いエントリーに
    感想いただけるのって嬉しいものですね。
    しかも怪獣化にコメントいただけるとは……嬉しい誤算。

    この話はいつもの「誰も分かってくれない」パターンではなく
    「分かってるはずなのに人間扱いしてくれない」
    もどかしさを出せればいいなあと思って書いたので、
    そう言っていただけるとほんとに報われます。

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